アート・宙はこれまで、400件以上の建物を手掛けてまいりました。
その一つひとつに、お客様の想いやストーリーがあるように、そこに携わる社員・職人たちにもまた、担当させていただくお客様や住まいへの想いやドラマがあります。
今回は、小椋がセールスエンジニアをしていた頃に出会った、あるお客様との家づくりを振り返ってみたいと思います。
■お客様の背景
私がまだ26、7歳で、新築の設計を担当したときのこと。
I様の祖父母の代からお住まいになっていた、築年数が経過した木造住宅でした。I様は30代男性で、長きに渡りお母様とその家に住んでいましたが、老朽化により建て替えをすることに。
新しい住まいへの期待が膨らむ一方、ご先祖や幼少期の思い出がたくさん詰まったその家を、壊してしまうことへの名残惜しさのようなものがおありでした。
■1つの願い
長く住んでいた家には、1本のケヤキの大黒柱がありました。色も黒ずみ穴が開き、決して良い状態ではありませんでしたが、I様はその大黒柱をなんとかして建て替える家に移して残せないか?とおっしゃいました。
材料費をできる限り削減し、予算を浮かせるために、旧家から使える素材を引き継ぐお客様もいらっしゃいますが、I様のようにご家族とその家の歴史を残したいという想いからのご依頼もあるんですよ。
■感動の上棟
I様の願いを叶えるべく、私たちも尽力しました。本来は専門業者が行う解体ですが、新居に引き継ぐ大黒柱を傷つけないよう、大工も入り慎重に作業を行いました。また、黒ずんだその柱を磨き、開いた穴を埋め、木材として蘇らせることができました。
上棟の日。新築の家の要として再び姿を現した、生まれ変わったその大黒柱を目にしたI様は、喜びもひとしおに、以前の古い家の面影を、これから完成していく新しい住まいに重ね合わせて見ているようでした。
アート・宙は、時代の変化とともに消えていく職人技や伝統工芸を後世に残そうと、日々取り組んでいます。私たちの継承精神と、このお客様の想いがリンクして、作業は普通の新築を建てるよりも手間ひまかかるところもありましたが、プライスレスの価値ある家が建てられたと、今でも誇りに思っています。
歴史や思い出を繋ぎ、年輪のようにまた新たな時を刻んでいくあの大黒柱。I様だけでなくわたしにとっても、特別なものとなりました。
これからもアート・宙は、こうしたお客様の想いに寄り添った家づくりを目指して参ります。